和歌と俳句

齋藤茂吉

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明日は 好新年と 口ずさみ 孫の寐しあと 直ぐ臥處に行く

家ダニが 蜘蛛類ならば われの撒く DDTも 甲斐なからむぞ

われつひに 六十九歳の 翁にて 機嫌よき日は 納豆など食む

最上川 あふれむとする 壮大を 今後幾たび 吾は見らむか

新年は めでためでたや 生れ来て 命あるまは 祝ぎあはないざ

苦蟲を つぶしし如き顔の もち主も ゑみかたまけて 餅をも食む

颱風に なやまされたる この家の 屋根にも白き 霜みゆるころ

をとめ等の みづみづとして 清きとき この國がらも やうやくに「新」

新春が 来りてこぞり ことほぎぬ 老いたるわれも まじはり行きて

うつせみの 老の心を はげまして よき歌一つ われは作らな

あたらしき 年きたれりと もろもろが 喜びかはす あやしきまでに

みちのくより 百合の根をわれに 送り来ぬ 大切にしまひ 置きたるものか

新しき 年のはじめの 朝めざめ 生きとし生ける こころはげまむ

生けるもの 鳥けだものも わが如く 心すがしく 聲あげむとす

新しき うづの光を 身にあびて とどこほるものを 遣はむとする

奈良の代に 用ゐられたる 伎藝面 獅子のかうべは おどろくばかり

川原より ひろひ来れる 黒き石 われの心を しづかならしむ

人まへに 吾は恥かし 老いびとの 心ますます 下等になりて

新年の あさあけにして 朝鳥の 心たひらかに 出でたたむとす

萬國に 新年くれば 祝がむとす 帽子の塵に ブラシをかけて