孫ふたり 下の部屋にて 遊びけり 炬燵やぐらより 飛ぶ音ぞする
地下鉄の 終点に来て ひとりごつ まぼろしは死せり このまぼろし
片づけぬ くくり枕より 蕎麦がらが 畳のうへへ 運命のこぼれ
忠犬の 銅像の前に 腰かけて みづから命終の ことをおもふや
ゆふぐれの くれなゐ見ゆる 東京の 家の二階に われは老いにき
そのかみに 峰より峰に つたはりし ながき狐火が 無くなり居りき
断え間なき 世の動揺の 通信に 疑問いだかば ののしられむか
をさな兒と 家をいでつつ 丘の上に 爽やぐ春の 香をも欲する
千葉県より 戀のこころに 告げていふ きさらぎ空に 雲雀啼くとぞ
きさらぎの 五日天より 雪ふりて はだらの名残 いまぞとどむる
ときとして 思ひ出ることも 浅薄に ひとり寐の冬の あかつきはやく
をさなき兒 ものいふ聞けば 樂しかり 人の世の「まこと」の 始まりなるか
わが生の 途上にありて 山岸の 薔薇の朱實を 記念したりき
たかむらを 透きて見え居る 西のかた 夕染め空に あこがれむとす
一月の 二十一日 深谷葱 みづから買ひて 急ぎつつをり
節分の 夜ちかづきて 東京の 中央街に 風のおとする
籠の中の 蜜柑をひとり 見つつをり 孫せまり来む 氣配もなきに
冬至より 幾日過ぎたる ころほひか 孤獨のねむり 窗の薄明
ひとり寝の 清にありなむ こひねがひ 銀座を過ぎて 今かへりこし