和歌と俳句

西行

萩が枝の露ためず吹く秋風にをじか鳴くなり宮城野の原

よもすがら妻こひかねて鳴く鹿の涙や野邊のつゆとなるらむ

をじか鳴く小倉の山の裾ちかみただひとりすむ我が心かな

篠原や霧にまがひて鳴く鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ

新古今集
小山田の庵ちかくなく鹿のねにおどろかされておどろかすかな

鹿の音を聞くにつけても住む人の心知らるる小野の山里

ひとりねの夜寒になるにかさねばや誰がためにうつ衣なるらむ

さよ衣いづこの里にうつならむ遠くきこゆるつちの音かな

分けて入る袖にあはれをかけよとて露けき庭に虫さへぞ鳴く

夕されや玉置く露の小笹生に聲はつらなすかな

あき風に穗ずゑ波よる苅萱の下葉にの聲亂るなり

蛬なくなる野邊はよそなるを思はぬ袖に露ぞこぼるる

あきの夜に聲も惜しまず鳴くを露まどろまず聞きあかすかな

あきの野の尾花が袖にまねかせていかなる人をまつ虫の聲

きりぎりす夜寒になるを告げがほに枕のもとに來つつ鳴くなり

秋深みよわるは虫の聲のみか聞く我とてもたのみやはある

ひとりねの友にはならで蛬なく音をきけば物思ひそふ

草ふかみ分け入りて訪ふ人もあれやふり行く宿の鈴むしの聲

うち過ぐる人なき道の夕されば聲立ておくるくつわ虫かな

ながむれば袖にも露ぞこぼれける外面の小田の秋の夕暮

吹き過ぐる風さへことに身にぞしむ山田の庵の秋の夕暮

いく秋にわれあひぬらん長月の九日につむ八重の白菊

新古今集
心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ澤秋の夕ぐれ

いつよりかもみぢの色は染むべしとしぐれに曇る空に問はばや

糸鹿山しぐれに色を染めさせてかつがつ織れる錦なりけり

染めてけり紅葉の色の紅をしぐると見えし深山辺の里