和歌と俳句

藤原良経

句題五十首

秋はきぬ 露は袂に 置きそめぬ 木の間の月の 洩らぬ夜ぞなき

ふるさとの もとあらの小萩 咲きしより 夜な夜な庭の 月ぞうつろふ

深き夜の はしにしたたる 秋の雨の 音絶えぬれば 軒端もる月

松かげの まやのあまりに 射し入りて 木末に月は かたぶきにけり

月見ばと いひしばかりの 人は来で 真木の戸たたく 庭の松風

ひとりかも 月はまちいでて 呉竹の ながながし夜を 秋風ぞふく

新古今集・秋
ゆくすゑは空もひとつの武蔵野に草の原より出づる月影

月影の 忘れず宿る 忘れ水 のざはに誰か 秋を契りし

越路より 千里の雲を 隔てきて 都の月に 初雁のこゑ

かりまくら 月をしきつの 衣手に 立ち寄る波も うらぶれにけり

山人の 衣なるらし 白妙の 月にさらせる 布引の瀧

ふりにける 立田の杜は 神さびて 木のもと照らす 秋の夜の月

その色と 思ひわけとや 秋風の 心づくしの 月に吹くらむ

旅人を 送りし秋の 跡なれや 入江の波に 浸す月影

誰となく 人まつむしを 標にて 誘ふか野邊に 独り行く月

さを鹿も 小野の草臥し 臥しわびて 月夜よしとや 妻を恋ふらむ

忘るなよ 出でし都の 夜半の月 清見が関に 巡りあふまで

秋の夜は ませ漏る露の 儚さも 月のよすがと ならぬものかは

月のすむ 空に稀なる 星の色を 籬に残す 白菊の花

秋は今 すゑ野に馴らす 嘴鷹の 恋ひしかるべき 有明の月