敏行朝臣
わが恋の數をかぞへば天のはら曇りふたがり降る雨のごと
よみ人しらず
打返し見まくぞほしき故郷のやまとなでしこ色やかはれる
枇杷左大臣仲平
山彦のこゑにたてても年はへぬ我が物思ひを知らぬ人きけ
紀友則
玉藻刈るあまにはあらねどわたつみのそこひも知らず入る心かな
紀友則
みるもなくめもなき海の磯にいでてかへるがへるも怨みつるかな
よみ人しらず
こりすまの浦の白浪立ちいでて寄る程もなく帰るばかりか
よみ人しらず
関越えてあはつの森のあはずとも清水にみえし影を忘るな
返し よみ人しらず
近ければ何かはしるし相坂の関のほかぞと思ひたえなむ
平なかきがむすめ
今はとて梢にかかる空蝉の殻を見むとは思はざりしを
返し 源巨城
忘らるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり
よみ人しらず
影にだに見えもやすると頼みつるかひなく恋をます鏡かな
よみ人しらず
あしひきの山田の添水うちわびてひとりかへるの音をぞなきぬる
よみ人しらず
たねはあれど逢ふ事かたき岩のうへの松にて年をふるはかひなし
贈太政大臣時平
ひたすらに厭ひはてぬる物ならば吉野の山にゆくへしられじ
返し 伊勢
わがやどと頼む吉野に君しいらば同じかざしをさしこそはせめ
よみ人しらず
紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて
よみ人しらず
紅に涙うつると聞きしをばなどいつはりとわれ思ひけむ
返し よみ人しらず
くれなゐに涙しこくば緑なる袖も紅葉と見えましものを
よみ人しらず
いにしへの野中の清水見るからにさしぐむ物は涙なりけり
よみ人しらず
雨雲のはるるよもなくふる物は袖のみ濡るる涙なりけり