和歌と俳句

後撰和歌集

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よみ人しらず
雨ふれどふらねど濡るるわが袖のかかる思ひに乾かぬやなぞ

返し よみ人しらず
露ばかり濡るらむ袖のかわかぬは君が思ひの程や少なき

よみ人しらず
常よりもまどふまどふぞ帰りつる逢ふ道もなき宿にゆきつつ

よみ人しらず
濡れつつも来ると見えしは夏引の手引きにたえぬいとにやありけむ

よみ人しらず
數ならぬ身はうき草となりななむつれなき人によるべ知られじ

よみ人しらず
ゆふやみは道も見えねどふるさとはもと来し駒に任せてぞくる

返し よみ人しらず
駒にこそ任せたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな

よみ人しらず
いづ方にことづてやりて雁がねの逢ふことまれに今はなるらむ

よみ人しらず
有りとだに聞くべきものを相坂の関のあなたぞ遙けかりける

返し よみ人しらず
関守があらたまるてふ相坂のゆふつげ鳥は鳴きつつぞゆく

よみ人しらず
ゆき帰り来ても聞かなむ相坂の関にかはれる人もありやと

返し よみ人しらず
もる人のあるとは聞けど相坂のせきもとどめぬわが涙かな

よみ人しらず
葛城や久米路に渡す岩橋の中々にても帰りぬるかな

返し よみ人しらず
中たえて来る人もなき葛城の久米路の橋は今もあやふし

藤原有好
白雲のみなひとむらに見えしかど立ち出でて君を思ひそめてき

よみ人しらず
よそなれど心ばかりはかけたるをなどか思ひに乾かざるらむ

よみ人しらず
わが恋の消ゆるまもなく苦しきは逢はぬ歎や燃えわたるらむ

返し よみ人しらず
消えずのみ燃ゆる思ひは遠ほけれど身も焦がれぬる物にぞありける

よみ人しらず
上にのみおろかに燃ゆる蚊遣火の世にもそこには思ひ焦がれじ

返し よみ人しらず
河とのみ渡るを見るになぐさまで苦しきことぞいやまさりなる

よみ人しらず
水まさる心地のみしてわがために嬉しきせをば見せしとやする