和歌と俳句

正岡子規

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宮崎の 日向の宮の 廣前に 民集まりて とよめき祈らく

御魂祭る 四月はじめの 三日の日を 時とかしこみ 櫻咲きけり

すめろぎの 遠つ御祖の あれましし 日向の國は 神の住みし國

丹よし 奈良の茶飯の たきやうを 歌人問はす 名をなつかしみ

へな土の へなの鑄形の へなへなに 置物つくる その置物を

飴賣の ひだは誠の ひだならず 誠のひだが 美の多きひだ

人の衣に 佛のひだを つけん事は 竹に櫻を つげらんが如し

第一に 線の配合 其次も 又其次も 寫生々々なり

君が病 瘡にあらねば 瘡守の 佛の力 それもすべなく

病みて臥す 御足の下の 鑄物師を 憐み給へ 藥王菩薩

妻子らと むつみかたらふ 夢さめて 砧うつ音 旅にしありけり

来し方を かへりみすれば はろばろと 海の彼方に 雁鳴きわたる

村の子が 祭の庭に 神楽すと 男神女神に いでたつらしも

虎の子は 牛を喰ひける 象の雄は 長き鼻もて 藁そろへ居り

つはものゝ 眞先に立てる 旗の上に いくさの神の よりたゝすらし

馬にして 憐むべきは 生臭き えせ法師らの 車引く馬

相模の海 大磯の磯の 満潮に 赤裳ぬらして 遊ぶ子らはも

むかばらの 癇の朝臣に 物申す 藥といふぞ かたつむり喰へ

ふりつゞく さみだれ時と なりにけり 草長うして 葵咲く庭

夏の日の 旅行く人の 影たえて 那須野の原に 夕立のふる