百とせのその日も鴫のゆふべ有
すそたたく寝覚でもなし雁のこえ
ぬれながらかた田によむや雁のふみ
はつかりや通り過して声ばかり
初雁やいよいよながき夜にかはり
鷹の眼にこぼれて雁のたち騒ぐ
干物の竿をせばめて蜻蛉哉
水に出て水には入らぬ蜻蛉哉
かうろぎも吹れあがりて竹の月
あさがほや鳴所替るきりぎりす
きりぎりす我のみと啼築地より
月の夜は石に出て啼きりぎりす
脱捨の笠着て啼やきりぎりす
尼寺の馳走は人へきりぎりす
名月や石に出て啼きりぎりす
落鮎や日に日に水のすさまじき
波のうへに秋の咲なり千種貝
とび入も山のもやうや初もみぢ
ひとつ色で似ぬものばかり紅葉哉
木陰から出て日の暮るる紅葉哉
いのち哉花見すまして紅葉狩
紅葉して蔦と見る日や竹の奥
明てから蔦となりけり石燈籠
雫かと鳥はあやぶむ葡萄かな
あまりては月に戻すや萩の露