和歌と俳句

加賀千代女

百とせのその日も鴫のゆふべ有

すそたたく寝覚でもなし雁のこえ

ぬれながらかた田によむや雁のふみ

はつかりや通り過して声ばかり

初雁やいよいよながき夜にかはり

鷹の眼にこぼれて雁のたち騒ぐ

干物の竿をせばめて蜻蛉

水に出て水には入らぬ蜻蛉哉

かうろぎも吹れあがりて竹の月

あさがほや鳴所替るきりぎりす

きりぎりす我のみと啼築地より

月の夜は石に出て啼きりぎりす

脱捨の笠着て啼やきりぎりす

尼寺の馳走は人へきりぎりす

名月や石に出て啼きりぎりす

落鮎や日に日に水のすさまじき

波のうへに秋の咲なり千種貝

とび入も山のもやうや初もみぢ

ひとつ色で似ぬものばかり紅葉哉

木陰から出て日の暮るる紅葉

いのち哉花見すまして紅葉狩

紅葉して蔦と見る日や竹の奥

明てから蔦となりけり石燈籠

雫かと鳥はあやぶむ葡萄かな

あまりては月に戻すや萩の露