和歌と俳句

朧 おぼろ

朧とは行きかふ人の顔白く 虚子

提灯のあうてわかれしおぼろかな 万太郎

鐘の音まづ鳴りわたるおぼろかな 万太郎

構内のおぼろに鉄軌岐れゆき 誓子

谷は朧湯小屋の人語更くるまで たかし

波哮るかたへとおぼろたどりけり 万太郎

さくさくと砂ふみわくるおぼろかな 万太郎

おぼろとはかかる菜の花月夜かな 万太郎

朧にて落つるハンマー音おくれ 楸邨

銀座の灯遠みゆればのおぼろかな 万太郎

空に雲湖に干潟の朧なり 秋櫻子

湯けむりのくまどる宿も谷おぼろ 爽雨

昼おぼろ泉を出でて水奔る 三鬼

朧めく砂丘十里へ波の足 林火

石上古杉暗き朧かな 青畝

光背に佛のかずのおぼろかな 青畝

山上の泊り朧の谷を見つ 林火

口中にさくら菓子溶くおぼろかな 林火

夜に着きて砂地踏みゆくおぼろかな 林火

長き濤受止め大地朧なり 林火

朧なる犬がよぎりぬ夜の魚を 楸邨

花の香か黒髪の香か月おぼろ 秋櫻子

白湯呑みて小皺の殖ゆるおぼろかな 双魚

大寺の大燈國師燭おぼろ 青畝

和服着てふところに呼ぶおぼろかな 林火

華やぐや花のなき木は朧被て 林火