和歌と俳句

與謝野晶子

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雨しろう ちる夜の 姉が御手 鐘にかしこき 春ぞと泣かる

中の子は 仏性あさき 春の御堂 紫衣の御姉を 梨に妬まぬ

憂き春の 御経ゆふべの 奥の院 姉と菩薩に 花ちりかかる

わかき叔母が 京をいたみし 円通寺 いたみし姉の 紫衣みる春か

普門品の 春二十五の 現し御声 ゆふ鐘などて 姉を隠さぬ

菩薩の君 花に詣での 塗り傘の 一の人なる 春や見ませし

花に水に 七日の月の ひとつ被衣 歌の御供と 宵を出できな

寺の御階 桃ちる月に かぞへ倦みて 叔母が読経を まねにし姉妹

しろがさね 藤によき夜の おはさむか 北野に近き 姉が京の月

姉が入りし 御寺の春の しら壁や 藤よふたたび 蓮を誘へ

ゆるしたまへ すがるによわき 姉のなみだ 花ちる宵の 堂の勢至よ

大門の とびらにすがる 春の日や 姉にしら藤 たそがれ長き

藤すぎて 鐘楼にちかき 後ろ御影 錦の肩に 春おちむとす