苔清水 ひびきつたふる 幽かなる 金閣寺の庭を 我家にぞ聴く
金閣は 細みちよろぐ 水の音の ただもはらなる 夏の日にして
火のごとや 夏は木高く 咲きのぼる のうぜんかづら ありと思はむ
夏山は 我が知る方の 夕霧に 緋秧鶏飛びて 風もつらしき
閑けきを 人は戦ふ 夏闌けて 模擬地雷火を 爆発せしむ
葉ごもりと 合歓のうれの 秋霧に 尾長は居らし その飛ぶ一羽
風の先 つぎつぎと飛ぶ 雛見れば 尾長や秋を 気色だちたる
眼力 けだし敢なし 夕顔の 色見さだめむ 睫毛觸りたり
夕顔は 端居の膳に 見さだめて 月より白し 満ちひらきつつ
端渓の 硯に向ふ 女の童 髪黒う垂れて 面照りにけり
また磨らな 硯にうつる 空のいろの 消えつつあるらに 墨の乾くに
よく磨らむ 愛し女童 七夕は 磨る墨のいろの 金に顯つまで
端渓の 硯の魚眼 すがしくて 立秋はいま 水のごとあり
澄みつつし 沁むる暑さか 西日さし しづけき幹に 蔦ひかり見ゆ
うち沈む 黒き微塵の 照りにして 暑は果しなし 金の向日葵
何聴かむ この日のうちぞ 指触り あてゆく針の 鋭くも短かき
深大寺 水多ならし 我が聴くに 早や涼しかる 瀧の音ひびく
むくろじの 実のまだあをき 庫裏の前 もの申すこゑの 我はありつつ
深大寺の池、水澄みたらし 下照りて 紫金の鯉の 影行く見れば
御厨子には 倚像の佛 坐しまして 秋さなかなり 響くせせらぎ
はてしらぬ 仏の笑まひ 面あかる 灯映りにして み掌の欠けたる
ここの山 我が聴く方ゆ 日照雨して 庫裏戸に濡るる 秋海棠の花