みちのべの 白きひかりの 燈に 草かげろふは 一つ来て居り
浅草の 日のくれぐれの 燈に き蟲こそ 飛びしがりけれ
電燈の ひかりにむるる 細か蟲は 隅田川より 飛び来つるなり
眼とぢて 吾は乞ひ祈む ありのままに この生の身を まもらせたまへ
月赤く かたむくを見し 夜ふけて 蟲が音しげき 道を来しかば
蟲が音は しきりに悲し 月よみの 光あかあかと 傾きゆきて
ひとあまた 炎の焼けし 跡どころ 高野のやまの 箸を賣見ゆ
たちのぼる 香のにほひを 嗅ぎながら ここに迫りし 火炎おもほゆ
娑婆苦より 彼岸をねがふ うつしみは 山のなかにも 居りにけむもの
うそざむく 夜ふけゆきて かりがねの 鳴けるを聞けば かなしくもあるか
めざめゐて ひとりぞおもふ いつしかも かりがね来鳴く ころとなりにし
かりがねは 遠くの空を 鳴きゆけり 夜ふけし家に かなしむときに
焼あとに ほしいままにて しげりにし 雑草もなべて うらがれにけり
あらはにて うづたかかりし 落葉には 今朝みれば霜ぞ いたく降りつる
うつしみは 苦しくもあるか あぶりたる 魚しみじみと 食ひつつおもふ
まどかなる わがをさな兒の 眠りさへ 顧みずして 幾日か経たる
ふゆの陽は 南かたよりに あまづたふ その日向にて 百子匍ひ居り
おのづから 秋は深むと おもふにも 寂かなるひかり 岡を照らせり
みちのくの わぎへの里ゆ 来し兄は 父が臨終の ことを語りぬ
柱時計 ここに焼けけむ 歯ぐるまの 錆び果て居るを 蹴とばしにけり
焼あとより いづる碁石の ころがりも 心に沁むと 告げやらましを
いつしかも 冬のひかりに 萌えいでし 細かき草を ここに我が見む
うらがれし むぐらを照らす 冬の日の 光を見れば こも戀しかり
ひといろに 霜がれ立てる 雑草の ひまに萌えづる この小草はや