和歌と俳句

齋藤茂吉

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いまの現のごとく悲しみ いにしへの 此処に滅びし 人をおもへり

中尊寺の 年ふりしもの 見まはりて やうやくにして 現しきがごと

弁慶が 持たりしとふ 笈を見ぬ 煤びしものに 顔を寄せつつ

ここに来て わがこころ悲し 人の世の ものはうつろふ 山河より悲し

うねりつつ 水のひびきの 聞こえくる 北上川を 見おろすわれは

白雲は 峰にこごりて たなびかず 雪降れる山 なべてかかりき

あまそそり はつかに雪の 降れりける 山いつくしと 北国ゆくも

須川嶽 大日嶽と たたなはる 山の幾重も 遠そきにけり

ある年の 北上川の みなぎりを この老人は をののき語る

ふきあぐる 北上川の 風あらし 松かぜのおとの かはるばかりに

向うには 衣川村 ありといふ 亡びぬるものは とほくひそけし

石巻の 名は恋しかり このゆふべ 汽車よりおりて こころ和ぎをり

うすぐらき 通もゆきて 灯のあかき 港町とおもふ 通もゆきつ

石巻より 海をとほらず 運河にて 米はこびしと 聞けばかなしも

しづかなる 北上がはの 河口を 見おろしてをり 旅を来しかば

石巻の 高きによりて このあした 南のかたを 振りさけにけり

いただきは 既に雪ふり しづまりて 蔵王の山は あまそそりける

石巻の 日和山より 見ゆるもの とほき渚に かぎろひたちぬ

わたつみに 北上川の 入るさまの ゆたけきを見て わが飽かなくに

南には 蔵王の山は わたつみの 海より直に そびゆるごとし

ひむがしの 海かぎり見ゆ 松島の 海路をこえて きらへるも見ゆ

石を売る 家に来りて いろいろの 石見つつをり 亡き父のため