和歌と俳句

後撰和歌集

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これひらの朝臣のむすめいまき
世とともに嘆きこりつむ身にしあればなぞやまもりのあるかひもなき

よみ人しらず
人知れぬわが物思ひの涙をば袖につけてぞ見すべかりける

藤原真忠がいもうと
山の端にかかる思ひのたえざらば雲井ながらもあはれと思はむ

もろうぢの朝臣
泣き流す涙のいとと添ひぬればはかなき水も袖濡らしけり

源たのむ
夢のごと儚きものはなかりけり何とて人に逢ふとみつらむ

よみ人しらず
思ひ寝のよなよな夢に逢ふ事をただかた時のうつつともがな

返し よみ人しらず
時の間のうつつをしのぶ心こそ儚き夢にまさらざりけれ

大伴黒主
玉津島ふかき入江を漕ぐ舟のうきたる恋も我はするかな

紀内親王
津の国の難波たたまく惜しみこそすくも焚く火の下に焦がるれ

よみ人しらず
夢路にも宿かす人のあらませば寝覚めに露は拂はざらまし

返し よみ人しらず
涙河ながす寝覚めもあるものを拂ふばかりの露や何なり

よみ人しらず
みるめ刈る方ぞあふみになしときく玉藻をさへやあまはかづかぬ

返し よみ人しらず
名のみして逢ふことなみのしげき間にいつか玉藻をあまはかづかむ

よみ人しらず
葛木や久米路のはしにあらばこそ思ふ心をなかそらにせめ

右大臣師輔
隠れ沼にすむ鴛鴦の聲たえず鳴けどかひなき物にぞありける

陽成院御製
つくばねの峰より落つるみなの河恋ぞつもりて淵となりける

よみ人しらず
雁がねの雲井はるかに聞こえしは今は限りのこゑにぞありける

返し 兼覧王
今はとて行きかへりぬる聲ならば追風にても聞こえましやは

小野小町
心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪に濡れぬ日ぞなき

よみ人しらず
忘れなむと思ふ心のやすからばつれなき人をうらみましやは