和歌と俳句

後撰和歌集

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在原元方
夢にだにまだ見えなくに恋ひしきはいつにならへる心なるらむ

壬生忠岑
思ふてふ事をぞ妬くふるしける君にのみこそいふべかりけれ

戒仙法師
あな恋し行きてや見まし津の国の今も有りてふ浦のはつ島

貫之
月かへて君をば見むといひしかど日だに隔てず恋ひしきものを

躬恒
伊勢の海に鹽やくあまの藤衣なるとはすれど逢はぬ君かな

是則
わたのそこ潜きて知らむ君がため思ふ心の深さくらべに

右近
唐衣かけてたのまぬ時ぞなき人のつまとは思ふものから

藤原守正
あらかりし浪の心はつらけれどすごしに寄せしこゑぞ恋ひしき

藤原のちかげの朝臣
いづ方に立ち隠れつつ見よとてか思ひくまなく人のなりゆく

土左
つらきをも憂きをもよそに見しかどもわが身にちかき世にこそありけれ

在原元方
淵は瀬になりかはるてふ明日香川わたり見てこそしるべかりけれ

伊勢
いとはるる身を憂れはしみいつしかと明日香川をも頼むべらなり

返し 贈太政大臣時平
明日香川せきてとどむる物ならば淵瀬になると何かいはせむ

右大臣師輔
葦たづの澤邊に年は経ぬれども心は雲の上にのみこそ

返し 女四のみこ
あしたづの雲井にかかる心あらば世を経て澤に住まずぞあらまし

贈太政大臣時平
松山につらきながらも浪こさむ事はさすがに悲しきものを

枇杷左大臣仲平
宵の間にはやなぐさめよいその神ふりにし床もうち拂ふべく

返し 伊勢
わたつみと荒れにし床を今更に拂はば袖やあわとうきなむ

はせをの朝臣
潮のまに漁りするあまも己が世々かひ有りとこそ思ふべらなれ

贈太政大臣時平
あぢきなくなどか松山浪こさむ事をばさらに思ひはなるる

返し 伊勢
岸もなく潮し満ちなば松山をしたにて浪は越さむとぞ思ふ