和歌と俳句

壬生忠岑

古今集・恋
たぎつ瀬に根ざしとどめぬうき草のうきたる恋も我はするかな

古今集・恋
風ふけば峯にわかるる白雲のたえてつれなき君が心か

古今集・恋
月かげにわが身をかふるものならばつれなき人もあはれとや見ん

古今集・恋
命にもまさりて惜しくある物は見はてぬ夢のさむるなりけり

古今集・恋小倉百人一首
有明のつれなくみえし別れより暁ばかりうきものはなし

古今集・恋
陸奥にありといふなる名取川なき名とりてはくるしかりけり

古今集・哀傷歌
寝るがうちに見るをのみやは夢といはんはかなき世をもうつつとはみず

古今集・哀傷歌
瀬をせけば淵となりてもよどみけり別れをとむる柵ぞなき

古今集・哀傷歌
時しもあれ秋やは人の別るべきあるを見るだに恋しきものを

古今集・哀傷歌
藤衣はつるゝ糸はわび人の涙の玉の緒とぞなりける

古今集・哀傷歌
すみぞめのきみが袂は雲なれやたえず涙の雨をのみふる

古今集・雑歌
住みよしとあまは告ぐとも長居すな人忘れ草おふといふなり

古今集・雑歌
おちたぎつたきの水上年つもり老いにけらしな黒きすぢなし

古今集・雑躰俳諧歌
隠れ沼のしたよりおふるねぬなはの ねぬなは立てじ くるないとひそ

後撰集・夏
夢よりもはかなき物は夏の夜の暁がたの別なりけり

後撰集・秋
松の音に風のしらべをまかせては竜田姫こそ秋はしくらし

後撰集・秋
秋の野に置く白露を今朝見れば玉やしけるとおどろかれつゝ

後撰集・秋
幾木ともえこそ見わかね秋山の紅葉の錦よそに立てれば