あち向に寐た人ゆかし春の暮
肘白き僧のかり寝や宵の春
春の夜に尊き御所を守身かな
春の夜の盧生が裾に羽織かな
春の夜や盥をこぼす町外れ
行春や撰者をうらむ哥の主
洗足の盥も漏りてゆく春や
けふのみの春をあるひて仕舞ひけり
春をしむ人や榎にかくれけり
歩き歩き物おもふ春のゆくへかな
ゆく春や歌も聞へず宇佐の宮
行春や眼に合ぬめがね失ひぬ
ゆく春やおもきかしらをもたげぬる
行春のいづち去けむかゝり舟
いとはるゝ身をうらみ寐やくれの春
寐仏を刻み仕舞ば春くれぬ
しら梅の枯木にもどる月夜哉
寝た人に眠る人あり春の雨
熊谷も夕日まばゆき雲雀哉
木の下が蹄のかぜや散さくら
衣手は露の光りや紙雛
法然の珠数もかゝるや軒のふじ
かづらきの紙子脱ばや明の春
鶯を雀歟と見しそれも春