和歌と俳句

森川許六

卯の花に蘆毛の馬の夜明哉

やまぶきも巴も出る田うへかな

人先に医師のや衣更

道ばたに繭干す薫のあつさ

上ひとつ脱で大工のころもがへ

蝋燭にしづまりかへるぼたんかな

竹の子に身をする猫のたはれ哉

五月雨にかかるや木曽の半駄賃

信濃路や蠅にすはるる痩法師

涼風や青田の上の雲の影

一竿は死装束や土用ぼし

桟やあぶなげもなし蝉の声

産月の腹を抱へて田植かな

照りつけるさらしの上や雲の峯

麦めしのへらぬになつの夜明哉

蚊遣火の烟にそるるほたるかな

伊豆するが蝉の目当や三穂の松

大名に馴染の大井川

夕がほや一丁残る夏豆腐

土用餅腹で広がる雲の峰

春過ぎて夏来にけらし白牡丹

馬場先を乗出す果や雲の嶺

角鍔に腹つき出して衣がへ

宿々は皆新茶なり麦の秋

杜鵑瀬田はうなぎの自慢かな

杖の間の逢坂山せみの声

半夏水や野菜のきれる竹生島

宇治川をわたす二人やくらべ馬

寒ざらし土用の中をさかり哉

天竜の黴雨や白髪の渡し守

麦跡の田植や遲き蛍どき

夏の月旅の笠寺いざぬがむ