とかくして越行ままに 阿武隈川を渡る
左に会津根高く 右に岩城 ・相馬 ・三春の庄 常陸 ・下野の地をさかひて山連なる
影沼といふ所を行に 今日は空曇て物影映らず
須賀川の駅に等窮といふ者を尋て 四五日とどめらる
まづ 白河の関いかに越えつるにや と問
長途の苦しみ 心身疲れ かつは風景に魂奪はれ
懐旧の腸を断て はかばかしく思ひめぐらさず
風流の初やおくの田植うた
むげに越えんもさすがに と語れば 脇 ・第三と続けて 三巻となしぬ
この宿のかたはらに 大きなる栗の木陰を頼みて 世をいとふ僧あり
橡拾ふ太山もかくやと閧ノおぼえられて ものに書付はべる その詞
栗といふ文字は 西の木と書て 西方浄土に便ありと
行基菩薩の一生杖にも柱にも此木を用給ふとかや
世の人の見付ぬ花や軒の栗