おくのほそ道

浅香山・信夫の里

 等窮が宅を出て五里ばかり 檜皮の宿を離れて 浅香山あり
道より近し このあたり沼多し
かつみ刈ころもやや近うなれば いづれの草を花がつみとは云ぞ
と 人々に尋侍れども 更知人なし
沼を尋 人に問ひ かつみかつみ と尋歩きて 日は山の端にかかりぬ
二本松より右に切れて 黒塚の岩屋一見し 福島に宿る
 明くれば しのぶもぢ摺の石を尋て 忍ぶのさとに行
遥山陰の小里に 石半土に埋てあり
里の童の来りて教ける
昔は此山の上に侍りしを 往来の人の麦草をあらして此石を試侍るを憎みて  此谷につき落せば 石の面下ざまにふしたり
といふ さもあるべき事にや

  早苗とる手もとや昔しのぶ摺


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