黒羽の館代浄坊寺何某のかたにおとづる
思ひがけぬあるじの喜び 日夜語続けて
その弟桃翠などいふが 朝夕勤訪ひ
自の家にも伴ひて 親族の方にもまねかれ
日を経るままに 一日郊外に逍遥して
犬追物の跡を一見し 那須の篠原を分けて
玉藻の前の古墳を訪ふ
それより八幡宮に詣
与市宗高扇の的を射し時
別してはわが国の氏神正八幡 と誓ひしも
この神社にて侍と聞ば 感応殊しきりに覚えらる
暮れば桃翠宅に帰る
修験光明寺といふあり
そこにまねかれて行者堂を拝す
夏山に足駄を拝む首途哉