高野山 杉生の奥の 常燈に ならびて出でし 春の夜の星
ませばこそ 生きたるものは 幸ひと 心めでたく 今日もありけれ
たましひは 片頬のはしの 空肖だに 見ずとかなしみ 君にかへりぬ
千羽いま 鵠の鳥立つ すがたして 日に走るなり 初夏の雲
山の上を 雪まろげゆく 神あるや 白き熊すむ 北国にして
春の月 雲すだれして くらき時 傘をおもひぬ 三条の橋
ふるさとや 霞のなかの 岡崎は 小家つづきと なりにけるかな
霜ばしら 月の宮居に あくがれて 夢見る土の むねにうまれぬ
みこころの まよひか物の まきれかと 天意なりける ことを思ひし
われに泣く 人を憎みぬ われに泣く 人をし人の いとひ給ふに
深川や 万両もちの 早船の 矢のごと出づる あけぼのの靄
われに似て 玉の夜床に ぬるものと 鶯をこそ おもひやりけれ
霞わく 山なり浅き 渓間より まろうどたちの 御粧湯より
夏の水 蓮きる船の 棹とりに やとひまつりし 京の君かな
女をかし 近衛づかさは 纓まきて 供奉にぞまゐる 伊勢物語
五つなる 円き目するを 物はえに せよとおしふる つれなし人よ
冷えし恋 かたみに知らず なほ行かば 死ぬべかりけり 氷の中に
金閣や 寺紋かきたる おん幕の 中に御茶煮る 下臈の法師
椿ちる 島の少女の 水くみ場 信天翁は なぶられて居ぬ
この森に 奇異なる鳥の 声せねど 南洋に似し 御手の熱かな