和歌と俳句

與謝野晶子

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今はさも あれと思へど いつの日の 念の力か ものねたみして

おそろしき 魔遣らふさまに 君を云ひ さびしき人は ゑみて居るかな

かへり見て 母にならひし やせ病 すなとも云はず 木太刀佩く児よ

春雨の 家のひと室は 三人の 人香なつかし しめやかにして

戸をくれば 厨の水に ありあけの うす月さしぬ 山ざくら花

宵月は きよらに着たる 花笠の 祭男に 似ておはすかな

白牡丹 さかば夜遊の 淵酔に 君を見むとす 春たけよかし

鳥立見よ おどろのかげの 小雀だに しら鷹羽の すがたして飛びぬ

夏の花 原の黄萱は あけぼのの 山頂よりも やや明うして

わが歌は 父よ涅槃の 床めぐる 生きたるものの 数に足らずや

いと奥に まもる力を 秘めて居き つつめるものは なべて燃えけれ

ものおほく ぬすむ隙ある 内心を にくみぬ人と 別れえぬ日に

また見むとや 長五百秋に おちがれし 髪と思はむ かげもはづかし

淡くして 御目ざめまたぬ 円山の 雪と云ひつつ たきものすなり

春ゆくや 山はかすめど 旅の身に 中山道は 潮の音もせで

岩かげの 梅に似し花 つみながら 七日になりぬ 湖のやど

わかれては 冬にも似たる 二月の 曇り日ぞらの 身に沁む人よ

菊の花 わわらに伏せる 霜の戸を まぼろしにして 姉をおもひぬ

幸を知る 日ごと夜ごとに ひとつづつ 星のうまるる わが上のそら

夜の太守 国見しますと 山の火は 幔幕ひきぬ 毛の国二つ