秋の日も 春の夕も ただくろき 島見る海の 家の恋しき
玉の指 琴爪はむる さま見ると 灯の中に居ぬ 春の夜の神
七夕の 後朝にあらず 暮またむ 銀杏のかげを 行けかし君よ
あるまじき 身やと御前に 思ふ時 美くしうこそ 頬のにほふなれ
髪ちらす 風とわすれて はなれ洲に 蘆の葉ふくを 遠く思ひぬ
わか草に はだれ雪する 野にたちぬ 馬上の人を うつくしみつつ
美くしき かたちとともに 君まちぬ 人をはばかる 心の鬼も
夕ばえは 東にてりて 山の端の 赤き中より 月ほのめきぬ
名なし草 蚕子の繭に 似る花を 春雨ぬらし 暮れにけるかな
十ばかり 小馬ならびて 嘶きて 春風よぶや 牧の裾山
天上の 春の快楽 をうはさる 問答なれば いと尊けれ
うき髪は かぶろに切りて 紫に 生ふる小草と まぎれ居ぬべき
いと小き 胸と思はず 船にして わが居る海の 浪立つ日なり
くらやみの 底つ岩根を つたひゆく 水のおとして 寝ね得ぬ枕
しのび音に 歌もうたひぬ その夕 あひ見ける日よ けふに似ぬかな
海の旅 船のまろうど まくらして 白魚のぼる 水おもひ居ぬ
楼にして 遠き山見る ゆく春や はららはらめき 髪おちにけり
河すすき ここに寝ばやな 秋の人 水あふれ来ば 君ととられむ
頬つたへと 何しに人の のろふらむ 氷雨に似たる 冷たきものよ
ああ少女 なにを憎めと つくられし 恋しき人を うらむが上に