この船の 泊さだめて 錨して われは真紅の 帆をおろしける
秋の日は まろ寝つつまし くろ髪の あまりみだれて あるもはづかし
翅ふり 友らは舞へり この蝶は 二十二にして 冬眠に入る
古ゆ ちからなしとし あやまちし 少女の末に 今日われを置く
わが心 おほふばかりの 大きなる 情も見ゆれ ありのすさびに
人こふる 心あまねき 君ゆゑに わがなげきにも かかづらひけむ
よき人は 悲しみ淡し わがどちは 死と涙をば 並べておもふ
この君よ もはらにわれを 思へりと たれもするなる 嘘云ひにきぬ
うき人を 刺さむことばを 七つほど えりてありしも 要は無かりし
こしかたの ほしいままなる 性矯めて ありとはねたき かへりごとかな
死ぬと云ふ この風流男の 血に染めし 文のたぐひに われおどろかず
病人の 終りの床に 云ふごとき 懺悔をすすむ さかりのわれに
くれなゐか みどりか青か 知らねども 君をかざれる 光の輪なり
島の家 人も木草も 黒からむ かく思ひけり 黒き嶋見て
夏草の 中にまじりて いちじろき ひなげしに似る こころとなりぬ
いと若き ことばをもてし 云ふことは すべて聞かむと 云ひしならねど
君とわれ 上総の国の 砂浜の あげすて船に いこひにしかな
いにしへの おほらかなりし 人もみな 無き名はせちに 歎きてありき
草むらの 中に家おき まぎれ居む 草な刈りそと おきてぬれども
古さとの 家にかへれば 東見ず 詠め泣きけむ 母ゆゑにわれ