和歌と俳句

與謝野晶子

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君いまだ 大殿ごもり いますらむ 鶯来啼く われは文かく

たなつもの 中にうれしき とりいれは 粟の黄なると 黍のくろきと

夏の夜は 馬車して君に 逢ひにきぬ 無官の人の むすめなれども

あか切れの 手もて擦る目の 何なれば 玉の如きと 幼形見し

うしろより うかがふ如く うるしちる 五間ばかりも 離れて行けば

逢ふまでの ものの障りを おもひ泣く われは七日に 老いにけらしな

十月は 思ふ男の 定まれる あとと如くに のどかなるかな

矮人 わが殯屋の 料にすと しろき埴もて 瓦焼くとき

よりそひて 煙草を喫めと 灯をすりぬ かはたれ時の 水際のまど

わが指を 麦魚にらみぬ 水草の 花のしろきを 二つ三つ摘めば

うす雪や 梅をかざせば 羽子板の 鷺娘より なまめかしけれ

わか草の 妻と籠りて 愛で知れぬ 元朝の雪 二日の雪を

云ひがたき ねぢけたる恋 持つことを はづかしとせず 妬む日ねもす

死ぬばかり 若き心を まどはせし その世の恋も このごと終る

折りたまへ 開け給ふべき 戸じるしに 廊に散らさむ ひなげしの花

浜茶屋の 子持ちの女 しみじみと われらをば見る 夕月夜かな

秋立ちぬ この朝はやく 逢ひにこし 白木の下駄の 緒の縹より

自らを 后とおもふ たかぶりを 後おもはじと せしにあらねど

衣桁なる うすき衣に 風の吹く この間に隣る 優婆塞の経

思はるる わがはばむより 恨みにも 泣きにも君に よらぬ少女ら