わが机 袖にはらへど ほろろちる 女郎花こそ うらさびしけれ
世の中に 上もなしとは 何ごとか 髪かこころか やはきかひなか
わが知らぬ 女王のいます 世界をば 夢にうつつに 見給ふが憂し
身じろげば 素焼の瓶子 ころころと 簀子にまろぶ 父のうたたね
叔母きたり 兵隊に似し 杭つづく 川のさまなど 語れとぞ思ふ
秋の雨 しぶしぶ降れる 庭の石 みつめてわれは 何を待つらむ
男とは 軽き情も 千金の 宝あたふと おもへるものぞ
今日のひる 顔見にくなと 云ふことを くりかへしつつ われ云ひしかな
なでしこは ほのに黄ばめり 海いでて 陸のものとも 見えぬ月にも
朝の雲 洞の中より 紅き蟹 百もならびて いづるさまかな
わが家の この寂しがる あらそひよ 君を君打つ われをわれ打つ
ふるさとの 花たちばなの ちりけはひ ひそかに思ふ 六月の閨
小床辺の 屏風をたたむ 暁に 啼く虫こそは かなしかりけれ
けふの後 わざはひ誰に 及ぶべき わづらはしやと 涙ながるる
わが昔 うら若き日は この君と 世をつつましく 思ひて過ぎぬ
うれしさは 君に覚えぬ 悲しさは むかしのむかし 誰やらに得し
十日して またあぢきなき 世にかへる はかなし人の 髪のおちざま
凉しげに 虎斑の石を 濡らしたる 朝ぎよめ愛で われは笛吹く
恋をする 男になりて 歌よみし ありのすさびの 後のさびしさ
わが外に 君が忘れぬ 人の名を 一つならずば なぐさまましを