たらちねの 親うからより よそ人を むつまじくしも 覚えし少女
三月見ぬ 恋しき人と 寝ねながら わが云ふことは 作りごとめく
御心に はなれぬ人の ものがたり われ聞くまでに なりにけるかな
夕闇の 世界またなく おもしろき 中を歩みぬ 初夏の人
夕ぐれに 狂ひて走る 空の風 髪にもの云ふ 水草の風
見も知らぬ 鳥来てすめる 如くにも おのれこの頃 心をぞおもふ
貝の笛 とどろと鳴し わが兄の 御嶽詣に ゆくが悲しき
美くしき もののすべてを 持て来つる 少女の世をば 人ぞ押しとる
美くしさ われにも似ざる ある人に 二なく仕ふる 僕なりてふ
惜しと云ふ 声をきくかな 手をぬけて おちし玉にも あらなくにわれ
山ざとの 小雨の昼は しら埴の かまどの前に 鴉きて啼く
何しかも 十年の後の わが恋を 思はむほどに 猛かりぬべき
あなにくし 憎しと倦まず 君を云ふ 人とも君は あやまち居らぬ
七日ほど 家にこもりて 愁ふるに 悲しみごころ 透き通りゆく
わがあらぬ 他の国と 思はずて たわやがひなに 夜は寝てこよ
夜きたり 馬の尾を斬る やからさへ 思ふことなる 恋なかけそね
うた人の 家つぎの子と 昨日まで かかはりもなき 街の少女と
あけがたの 春日の宮の 十二燈 うすく濃く見せ 五月雨ぞふる
もの食はむ 心おこりぬ 夏の月 酒の糟より いでこし如き
親兄の 勘当ものと なりはてし わろき叔母見に きたまひしかな
かつてなき 眠らぬ夜に 逢ひたりと 云はずもよしや 君が抱けば
彼の人を われの知るとも 知らずとも 友に云ふ身は くるしきものを