わが髪の かたはらにしも 水いろの 絹をひろぐる 秋の風かな
初めこそ 欠けたることの おほくある 母と見えけれ たふとく老いぬ
わが胸に 錠さしてゆく 獄卒の 足音どもを ほれぼれと聞く
わが鏡 めで給ふこと 極まりて 悲しみの湧く 眉をとどむる
あなさびし 灯ともし頃の くりいろの 廊を吹く 初秋のかぜ
この二つの 心はやがて またもなく よく知るものと なりにけるかな
わが住むは 醜き都 雨ふれば ニコライの塔 泥に泳げり
夏の月 叔父の法師の 座を見つつ 大物食と ささめくは誰
うらめるは 心憂けれど いにしへの 事うち語り 泣く人はよし
逢はぬよし ものに託して こそことも 三とせになりぬ いかがすべけむ
吾妹子は かたじけなくも うれしくも はた哀にも 見ゆるものかな
乞ふらくは なほ夜夜を 美くしき 変心者を 夢見せたまへ
わが胸に うれひ来ると 知るごとく 煙をたつる 遠方の里
あらかじめ 思はぬことに 共に泣く かるはずみこそ うれしかりけれ
御空より 海より君が 解きはなつ 長き髪より 秋のよりきぬ
童なる 女の肩に 山ざくら ちるをめでつつ 端居するかな
さまざまに 云ひのがれ居し をかしさは 今に変らぬ ものにぞありける
濃鼠 うみたそがるる 濃ねずみ わが天地の 濃ねずみ色
龍騎兵 いで入るたびに 旗とりて われをまもるも こちたくなりぬ
めだたさを 目に見あつめし 自らが われ美くしと 思ひしものを