秋きては今日ぞわづかに三日月と思ふにかげの冴えにけるかな
有明のあかで明け行く空よりもとどめまほしき夕月夜かな
いづこよりいつか出でつる山の端に入るのみ見ゆる弓張の月
月はなほ秋てふなかに秋といへど秋の盛りぞ盛りなりける
まばらなる賤のしばやに洩る月の身よりすきぬる影のさやけさ
宿ごとに思はせたりや暮れはててしばし待たるる十六夜の月
露わけは袖にさへこそやどりけれ旅のみそらの立待ちの月
山里は山のさむしろしきゐにて居待ちの月を待つもさびしき
まきのとに待ち寝にしばしまどろめばさし驚かす山の端の月
椎柴やしげきみやまの月影は今宵ならねどはつかにぞ見る
草深き人もかけせぬ大荒木の森のしたにも月ぞもりける
あさぢはら月をやどして白露のおのが光と思ひかほなる
秋の夜の深きあはれは有明の月みしよりぞ知らしはてまし
隠れぬとうき世のひとに見えしかどなほ山の端に月はすむなり
薄雲に影な惜しみそ秋の月みてだにしばし心はるけむ
吹き拂ふあなしの風に雲はれてなこの戸わたる有明の月
たちもあへず川瀬にめぐる水車汲む數ごとに宿る月かな
夢さめて玉かとぞおもふ板間より衣の上にかかる月影
秋ふかみ夜な夜な月の冴えさえて霜とは露や結ぼほるらむ