うぐひすのとどめていにしほととぎす今日や古巣にひとりなくらむ
まどろめばやがて覚めぬる宵の間の夢ばかり鳴くほととぎすかな
しのびつま置き行く空にほととぎす名残りおほくも鳴きわたるかな
待ち明かす我をば知らでほととぎすいかなる里に朝居しつらむ
もろともに夕涼みせしほととぎすしばし語らへ森のこずゑに
ほととぎす語らふこゑと思はばや絶えず音する軒の雫を
道もなく荒れゆくほどの橘に昔の音なるほととぎすかな
知らざりし安達の原の仮寝にも聲なつかしきほととぎすかな
都にはまたもなくらむほととぎす外山のいほにかれす語らむ
ほととぎす聞かで寝る夜もありなまし物思ふことのなき身なりせば
今日はなほ沖漕ぎ出でしほととぎす鳴く山もとのあけの赭舟
うち渡す駒のとどろにほととぎすさやにも聞かず瀬田の長橋
水無月になほ訪るるほととぎす帰る山路やもの憂かりけむ