いためやま さかゆくみかは たまかづら くるしくてのみ よをすぐしつる
のがれてし はにまならねど よのなかを ねたくもとのみ いはれぬるかな
わがこころ ちぢやちぐさに おもへども なりはつる身は ただひたすらに
みすりせく たまつをがはの とこなめに おもふおもひに おもがはりせよ
よのなかを いでやなにかはと おもへども しなへうらぶれ なつみてぞふる
なげきつむ ちからくるまの 輪をよわみ たちめぐるべき ここちこそせね
あはれてふ みのことくさは しもかれて こもろきものは なみだなりけり
みはかへて ひくひとあらば ひさにふす たまのをことも ならましものを
先の世も 今も来む世の 身のほども けふのさまにて おもひしるかな
こがらしの ふきただよはす うき雲は たのまれぬ世に ふる身なりけり
なりはつる すがたをみれば かなしさに しほしほとこそ ねはなかれけれ
みかりする 犬だにかけし せこ縄や おもふこころは いつかたゆべき
続後撰集・雑歌
いほさきの このみのはまの うつせ貝 藻にうづもれて いくよへぬらむ
なにごとも おもひいたらぬ 世の中に 身はあまりぬる ものにぞありける
世の中は おもひくまなき ものなれや たのむ身をしも いとふとおもへば
われかみは なげきこりける うけさをや はきあつめつつ ひととなしけむ
新勅撰集・雑歌
難波潟 あしまの氷 消ぬが上に 雪ふりかさぬ おもしろの世や
わがごとく 世にすみわびて あきやまの したひがしたに さをしかなくも
この世をば かりともいはむ あをによし ならはぬ身には それもそふなと
あづまぢに ありといふなる にげみづの にげのがれても 世をすぐすかな