北原白秋

13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

しみじみと涙して入る君とわれ監獄の庭の爪紅の花

やつこらさと 飛んで下りれば 吾妹子が いぢらしやじつと 此方向いて居り

編笠を すこしかたむけ よき君は なほ紅き花に 見入るなりけり

鳳仙花 紅く咲ければ 女子も かくてかなしく 美しくあれよ

この心 いよよはだかと なりにけり 涙ながるる 涙ながるる

罪びとは 罪びとゆゑに なほいとし かなしいぢらし あきらめられず

ふたつなき 阿古屋の玉を かき抱き われ泣きほれて 監獄に居たり

どん底の 底の監獄に さしきたる 天つ光に 身は濡れにけり

日もすがら ひと日監獄の 鳩ぽつぽ ぽつぽぽつぽと 物おもはする

監獄にも 鳳仙花咲けり いと紅しと この弟に 言ひ告げやらむ

母びとは 悲しくませば 鳳仙花 せめて紅しと 言ひ告げやらむ

いつまでか 日は東より のぼるらむ 昨日に同じ 赤き花咲く

あはれなる 獄卒どもが 匍ひかがみ 紅きダリヤの 毛虫とる見ゆ

狂人の 赤き花見て 叫ぶとき われらしみじみ 出て尿する

赤き花 見つつ涙し 頑なの この若ものが 物言はぬかも

バリカンの 光うごけば しくしくと 痛き頭の やるせなきかな

バリカンに 頭あづけて しくしくと つるむ羽虫を 見詰めてゐたり

おのれ紅き 水蜜桃の 汁をもて 顔を描かむぞ 泣ける汝が顔

夕されば 入日血のごと さしつくる 監獄うれしや 飯を食べてむ

驚きて ふと見つむれば かなしきか わが足の指も 泣けるなりけり

わが睾丸つよくつかまば死ぬべきか訊けば心がこけ笑ひする

淫れ歌 うたひつくして 泣くなめり 忘れ難かり あきらめられず

和歌と俳句