北原白秋

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空見ると 強く大きく 見はりたる わが円ら眼に 涙たまるも

烏羽玉の 天竺牡丹 咲きにけり 男手に取り 涙を流す

烏羽玉の 黒きダリヤに あまつさへ 日の照りそそぐ 日の照りそそぐ

あまつさへ 夾竹桃の 花あかく 咲きにけらずや わかき男よ

いと酢き 赤き柘榴を ひきちぎり 日の光る海に 投げつけにけり

白き猫 あまたゐねむり わがやどの 晩夏の正午 近まりにけり

驚きて 猫の熟視むる 赤トマト わが投げつけし その赤トマト

あかあかと 騒ぎ廻りそ 人力車 夕日に坐り 泣く男あり

またぞろ ふさぎの蟲奴が つのるなり 黄なる鶏頭 赤き鶏頭

やはらかに ローンテニスの 球光る 公園に来て けふもおもへる

草の葉に 辷りちろめく 青蜥蜴 その児悲しも 夕日は光る

かなしければ 昼と夜との けぢめなし くつわ蟲鳴く 蜩の鳴く

曇り日の 朝の瓦の 見はるかしを 鳩歩み居れり さみしきか鳩よ

電線に 雀とまりて つるみたり 悲しかりけり また飛んでけり

心心 赤き実となり 枝につく 鴉食まむとす はぢぎれむとす

柿の赤き實 隣家のへだて 飛び越えて ころげ廻れり 暴風雨吹け吹け

電線に 鳶の子が啼き 月の夜に 赤い燈が點く ぴひよろろろよ

なになれば 猫の兒のごと 泣くならむ 鳶とまれり 電線の上に

横網に 一銭蒸汽 近づくと 廻るうねりも 君おもはする

見れば乞食は 腐れ赤茄子を かいつかみ ひたぶる泣きて 食ふなりけり

小犬二匹 石炭舟の ふなべりを 鳴けり狂へり 夜に叫び居り

ぬば玉の くらい水の面を 奥ふかく 石炭舟の すべりゆきにけり

十一月は 冬の初めて きたるとき 故国の朱欒の 黄にみのるとき

喨喨と ひとすぢの水 吹きいでたり 冬の日比谷の 鶴のくちばし

和歌と俳句