北原白秋

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かなしみに 顫へ新たに はぢけちる われはキヤベツの 球ならなくに

わが心 ただひとすぢと なりにけり 笛を吹け吹け とんぼがへれよ

ひとをどり ひやるろうと吹けば 笛の音も ひやるろふれうと 鳴るがいとしさ

代々木の 青かしがもとに 飛びありく 白栗鼠のごとく 二人抱きし

春くれば 白く小さき 足の指 かはゆしと君を 抱きけるかな

手にぎりて かたみに憎み 蓴菜の 銀の水泥を 見つめつるかな

死ぬばかり 白き桜に 針ふると ひまなく雨を おそれつつ寝ぬ

蝋燭を ひとつ点して 恐ろしき われらが閨を うかがひにけり

その翌朝 君とわが見て 慄へたる 一寸坊が 赤き足芸

ひなげしの あかき五月に せめてわれ 君刺し殺し 死ぬるべかりき

男泣きに 泣かむとすれば 竜胆が わが足もとに 光りて居たり

このかなしき 胸のそこひゆ こみあぐる くるめきの玉は 鉄の玉かも

来て見れば 監獄署の裏に 日は赤く テテツプツプと 鳩の飛べるも

と見れば 監獄署の裏の 草空地に ぶらんこの環の きしるなりけり

氷閉ぢ 野菜つめたき 冬のみち ゆけどもゆけども 人に逢はなく

煤烟 たなびくもとに 葛飾の 青菜畑は はるばると見ゆ

ぐろきしに あつかみつぶせば しみじみと から紅の いのち忍ばゆ

時計の針 1と1とに 来るとき するどく君を おもひつめにき

どれどれ 春の支度に かかりませう 紅き椿が 咲いたぞなもし

あかんぼを 黒き猫来て 食みしといふ 恐ろしき世に われも飯食む

犬が啼き居り 乾草になかに やはらかく 首突き入れて 犬が啼き居り

吾が心よ 夕さりくれば 蝋燭に 火の點くごとし ひもじかりけり

和歌と俳句