北原白秋

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金婚の 父と母とを 言祝ぐと 子ら擧り來て つどふよろこび

金屏の 灯映り見れば 父と母 竝びおはして いよよたふとさ

父の添ふ 母の今宵の 影見れば 永くも添ひて 舊り來ましけり

よき翁 よき嫗とし うち竝び 笑ますこの夜の あてにをさなき

父と母 竝びいまして しづけさよ 七十路越えて 二柱なほも

うちそろひて 老づく子らを 父と母 世にますことの ありがたく泣かゆ

童より 四十路五十路と 父母を 仰ぎ來しもの 正眼かなしく

わが母の いまだあえかに ましまして 父のみもとの ぼんたんの花

童ぞと まだおぼせれか 一聲に 喝とぞ嘖ばす 白き髯の父

言過ぎて 嘖ばえにけり 何ぞかく 父の尊の おそろしきや我に

嘖ばえて まかり還ると 夜は寒し この元日の 星の照りはも

嘖ばえて 父と思へば いさぎよし よくこそ強く 生きたまひけれ

老いらくの ながき朝夜の わびごころ ただに對はし 寒きこの頃

父と母 冬は南の 日あたりを ただによろしみ 常二階に坐す

和歌と俳句