上乾く もろき地膚や 立つ霜の 光る柱は さくりさくり踏む
朝北風を 帽ひきかぶり 出あるくと 松原越えて 寒しいよいよ
反射燈 更闌けにけり 我と在る 球面の影の 冬はきびしさ
煙筒に 風の吹き入る 音きけば 雪解はいたも 騒がしくあり
讃へ言 うち擧げむよは まのあたり 今日をさやけき 白梅の花
君がため 未明に起きて 梅のはな 見に來りけり まさやけき花
來り見て 涙しづかなり 梅のはな かくはこもらふ 靄にこの花
白くのみ 光こもらふ 梅のはな 松の木群ぞ うちかすみたれ
晝の靄 うちへだて見れば 梅のはな 紫ふかき 枝に照り交ふ
咲きにほふ 老木の梅 こぼれ日は 花おほきからに うつくしき影
よき人の 道のあゆみは とどまらず 白梅の陰を 入りて出たまふ
梅の花 にほふ南の ゆふがすみ ほのかに老に いたりたまへり
日のあたり なにとなけれど 春もやや 立枯草の 叢根かがよふ
ほのぬくみ 明る眞土や 追ひぬけて 鼠見はなち 猫のころぶす
葦かびの 角ぐむ見れば あさみどり いまだかなしき 宇麻志阿斯訶備比古遲神
春はまだ 寒き水曲を 行きありく 白鷺の脚の ほそくかしこき
春早き 田の面の水皺 風吹けば 流るるがごとく 動きつつ見ゆ
春いまだ 蟇のたまごも 田川には 水泥かぶりぬ 搖りうごく紐
紐解くる 蟇のたまごに くろぐろと 今はしみみに はずむものあり
ほかならぬ 子らを思へば かへる子も しじに生れつつ 水に搖れ出ぬ
かへる子ぞ 繁に生れたれ この水を 親のかへるの 影ひとつ無し