北原白秋

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大野良の 一夜の霜の 下り到り 見る眼まばゆき 冬は菜のいろ

大霜の ひと朝のいろを 我は見て 夜をとほし來し 今ぞおどろく

宵早く 寝ねにたりける 今朝起きて 子らが駈けいづる 畠の大霜

鶏のこゑ うらめづらしと あらなくに 大霜の今朝の 野は澄みにける

日の出前 霜はふかきを くろぐろと 人立てり見ゆ 浄水池の土手

霜晴を おほに燃え立つ 丘の靄 ひむがしの空は 日ののぼるなり

霜晴の 靄の氣に立つ くぬぎ原 午ちかき日の 今はあたりぬ

日あたりの 枯葉のくぬぎ はららかず 霜晴の午の 靄のしづけさ

にびねずみ 雑木のすがれ うちけぶる 霜の氣にして 晝はあたたか

靄の奥 ふかくかがよふ むらがりは 櫟枯葉か 乾ききりたる

しづけさ たとふべきなし くぬぎ原に あはれかがやかし 一様ちりをる

赤松の 木群しづけく ありにけり 日のあたるところ 影を落して

日のあたりの 枯野よこぎる 道あらし 思はぬにしろき バスの搖れ來る

思ふこと みなしづかなり 妻とゐて 冬の日向の 靄にこもらふ

冬雑木の 靄あたたかき 遠ながめ 鉾杉の秀も 群れてこもれり

霜晴の 日あたりぬくむ 野の南 ラヂオの塔は うち對ひ見ゆ

和歌と俳句