和歌と俳句

正岡子規

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鉢二つ 紫こきは をだまきか 赤きは花の 名を忘れけり

古萩の 若葉の陰に 子をつれて 雀のあさる 昼中の園

緑立つ 庭の小松の 末低み 上野の杉に 鳶の居る見ゆ

立ち並ぶ 榛も槻も 若葉して 日の照る朝は 四十雀鳴く

撫子は 茂り桔梗は やや伸びぬ 猶二葉なる 朝顔の苗

夕顔の 苗賣りに来し 雨上り 植ゑんとぞ思ふ 夕顔の苗

時鳥 谷中の杜や 過ぎつらん 後追ひかけて むら雨のふる

鉢植の 柑子の花は 咲きにけり 山時鳥 明日や鳴かなん

時鳥 鳴く山の端に 月落ちて 塔ほの見ゆる 明方の杜

夏ながら 藤咲く山の 山道を 山郭公 聞きつつぞ行く

時鳥 都を北へ 鳴きにけり 大宮人の 今か聞くらん

山崎の 里よぎて鳴け 時鳥 ざれ歌よみの 住みもこそすれ

撫子の 花咲く園の 夕暮に 一聲どよむ 時鳥かな

飛ぶ鳥の あすかに行くか 時鳥 上野の松よ 鳴きて過ぎけり

五月雨の 雨すくなみか この夏は 山時鳥 聲の乏しき

時鳥 只一聲に 夜は明けて ほのかに青し 江の上の山

高荷負ふ 旅商人の むれこゆる 越の深山は 若葉しにけり

妹とわが 昔遊びし あづまやは 若葉こもりて 行く人もなし

函庭の 埴生の小屋は 梅苗の 若葉がくれに なりにけるかな

きのふ見し 花の上野の 若葉陰 小旗なびきて 氷売るなり