和歌と俳句

正岡子規

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千はやふる 神の御代より 日の御子の いやつぎつぎに しろしめす國

深山には 山の幸あれ 海邊には 海の幸あれと 守ります神

たひらかに 緑敷きたる 海の上に 櫻花咲く 八つの島山

ことさへぐ とつ國人の めづるてふ 椿の花の さはに咲く國

豊葦原の 瑞穂の國と 天の神が のろたまひたる 國は此國

十萬の 群の中にも 知られけり 君が月毛の いななく聲は

伯樂は 知らずや陸奥の 山中に 荷負ひ田かへし 年ふりぬとは

こち風の 吹きくる戈の 音もなし 牧の日向に 草に飽きて寐る

遼東の 雪踏む夢や 覺めつらん 月に嘶く 聲のかなしさ

聞くならく 君が御料の 五萬匹 又金華山に 如く者もなし

金岡が 畫きし筆に 魂入りて 夜半の襖を ぬけいでしとふ

ベースボールの歌

久方の アメリカ人の はじめにし ベースボールは 見れど飽かぬかも

國人と とつ國人と うちきそふ ベースボールを 見ればゆゝしも

若人の すなるあそびは さはにあれど ベースボールに 如く者はあらじ

九つの 人九つの あらそひに ベースボールの 今日も暮れけり

今やかの 三つのベースに 人満ちて そぞろに胸の うちさわぐかな

九つの 人九つの 場をしめて ベースボールの 始まらんとす

うちはづす 球キャッチャーの 手に在りて ベースを人の 行きぞわづらふ

うちあぐる ボールは高く 雲に入りて 又落ち来る 人の手の中に

なかなかに うちあげたるは 危なかり 草行く球の とどまらなくに