和歌と俳句

正岡子規

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百とせの 狸住むてふ 八つまたの ちまたの榎 今ありやなしや

伊佐庭の 湯月をとめの 手枕に 夢や見るらん ますらをの友

我昔 住みし軒端の 老い櫻 世にいくたびの あるじかへけん

あげまきの 童あそびに 釣垂れし 出合の淵は 瀬と變らずや

歸らんか 歸らんか わが故郷の 人の子驕り 禮を知らずとふ

足なへの 病いゆてふ 伊豫の湯に 飛びても行かな 鷺にあらませば

犬追ひし 昔の友は 年たけて 妻もやあらん 子もや泣くらん

故郷の 御墓荒れけん 夏草の ゑぬのこ草の 穂に出づるまでに

うま人の 不盡にぬる夜を 珍しむ 天つ少女の 袖ふるらんか

人皆の はだへぬく日を ふじのねに 冬よそひして ふるへて居るらむ

から歌に 歌にもつくり 畫にもかき 我にあらはせ そのくすしさを

富士の歌 富士の唐歌 富士の畫は 山なすあれど 君が歌に畫に

けならべて 隅もおちず見よ ふたゝびも 君がのぼらん 不盡にあらなくに

龍の居る 八重の黒雲 蹈み分けて 星の都に 夜を明すらん

不盡の根を 高みかしこみ いにしへの 歌よみ人は 雲わけずけむ

富士い居る 君がいぶきの 風となりて 東の海に 波立つらしも

つかさあさる 人をたとへば 厨なる 喰ひ残しの 飯の上の蠅

日の照す 晝こそあらめ 烏羽玉の 夜を飛ぶ蠅の にくゝもあるか

馬の尾に つきて走りし 蠅もあらん とりのこされし 牛の尻の蠅

尿蟲の 臭きを笑ふ 笑ふものは 同じ厠の 尿の上の蠅