和歌と俳句

正岡子規

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ひむがしの 京の丑寅 杉茂る 上野の陰に 昼寐すわれは

吉原の 太鼓聞えて 更くる夜に ひとり俳句を 分類すわれは

富士を蹈みて 歸りし人の 物語 聞きつゝ細き 足さするわれは

昔せし 童遊びを なつかしみ こより花火に 餘念なしわれは

いにしへの 故郷人の ゑがきにし 墨繪の竹に 向ひ坐すわれは

人皆の 箱根伊香保と 遊ぶ日を 庵にこもりて 蠅殺すわれは

菓物の 核を小庭に 蒔き置きて 花咲き實のる 年を待つわれは

世の人は 四國猿とぞ 笑ふなる 四國の猿の 子猿ぞわれは

我庵に 来ると来る蚊を 焼盡し 裸涼しく 書を讀まばや

村つづき 青田を走る 汽車見えて 諏訪の茶店は すずしかりけり

わが憩ふ うしろの森に 日は落ちて あたまの上に 蜩の啼く

ひぐらしの 谷中の杜の 下陰を 涼みどころと 茶屋立てにけり

蝉の鳴く 木のくれしげに 小屋立てゝ 腰掛置きて 氷水賣る

今立てし 石の鳥居の 動きなく 御代安かれと いはふ宮人

自轉車を 茶屋の柱に たてかけて 晝寐する人 樅の下風

其陰に 茶店の釜を 据ゑにけり 注連引きはへし 諏訪の神杉

三かゝえの 樅の下陰 坐をしめて 筑波の山に われ向ひ居り