和歌と俳句

正岡子規

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桃の實の 二つにわれて あれいでし 名におへりけり 桃太郎かも

もろもろの 鳥けだものを あともひて 鬼が島なる 鬼打ちに行く

きぎし女は 旗ふりかざし 猿彦は ますらをさびて 弓杖つくも

昔々 をぢうば住めり 子もがもと 思へど老いぬ 子はあらずして

をぢは山へ うばはときとき衣 そそぎすと 川邊に立てば 桃流れ来つ

日の本に たぐひあらじの 黍團子 君がいくさを 祝ひてぞ食す

鬼こもる 島の大城戸 うち破り をたけびしたる ぶち犬の友

船八船 車八車 ことごとに 積みし寶の 數もしられず

千年ふる 朱の忌垣に 苔蒸して 賀茂の社は 神さびにけり

文の道 守るとこそ聞け 紙屋川 北野の神に 我祈らなん

春日山 神の御前に ぬかづきて 帰らんとすれば さを鹿の聲

白砂に 松葉吹き散る 水無月の 風緑なり 住吉の宮

百照す ともし火百の 影落ちて いつき島宮 潮満ちにけり

大江戸の 神田をのこは 荒神を 神といつくと 聞くはまことか

笠島に あやしき神を 祭るこそ いにしへぶりの なごりなりけれ

鹽竃の 神や知るらん 藻汐焚く 蜑の煙の 立ちし昔を

両國の 橋の橋板 板をふるみ 節あらはれて 車こけんとす

風起る 隅田の川の 上げ汐に 夕波かづき 泳ぐ子らはも

我昔 住みにし跡を 尋ぬれば 櫻茂りて 人老いにけり

月細き 隅田の川の 夕間暮 待乳を見れば 昔偲ばゆ

浅草の 五重の塔に 暮れそめて 三日月低し 駒形の上に

何見ても 昔ぞ忍ぶ 中んづく 隅田の夏の 夕暮の月

都路は ともし火照らぬ 隈もなし 夜の埃の 立つも知るべく

瓜茄子 あきなふ店を めづらしみ 車ゆるめて 小道より行く

たまたまに ちいさき花火 あがりけり 夕涼み舟 今や出づらん