和歌と俳句

正岡子規

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憎き者 うなじねを刺す 蚊はあれど 睡らんとする 顔の上の蠅

山も見えず 鳥もかけらず 五百日行く 八重の汐路の 船の中に蠅

世の中は 馬屋のうしろの 畑に生ふる 唐撫子の 花の上の蠅

こゝも猶 うき世なりけり 草鞋編む 田舎のをぢの 背の上の蠅

三寸の 筒を開けば 玉くしげ 箱根の山は あらはれにけり

足たゝば 箱根の七湯 七夜寐て 水海の月に 舟うけましを

足たゝば 不盡の高嶺の いただきを いかづちなして 蹈み鳴らさましを

足たゝば 二荒のおくの 水海に ひとり隠れて 月を見ましを

足たゝば 北インヂアの ヒマラヤの エヴェレストなる 雪くはましを

足たゝば 蝦夷の栗原 くぬ木原 アイノが友と 熊殺さましを

足たゝば 新高山の 山もとに いほり結びて バナナ植ゑましを

足たゝば 大和山城 うちめぐり 須磨の浦わに 晝寐せましを

足たゝば 黄河の水を かち渉り 崋山の蓮の 花剪らましを

庭もせに 晝照草の 咲きみちて 上野の蝉の 聲しきるなり

一桶の 水うちやめば ほろほろと 露の玉散る 秋草の花

朝な朝な 一枝折りて 此頃は 乏しく咲きぬ 撫子の花

同じ鉢に 眞白鈍色 うちまぜて 三つ四つ二つ 咲ける朝顔

夏菊の 枯るる側より 葉鶏頭の 紅深く 伸び立ちにけり

椎の樹に 蜩鳴きて 夕日影 ななめに照す きちかうの花

もとあらの 萩の葉がくれ 咲きそめし 百日草の 散らんともせず

わが庭の 垣根の小草 花咲きぬ 秋や立つらん 武蔵野の原