和歌と俳句

正岡子規

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簾捲く 檐端の山の 永き日を 雲も起らず 晝静かなり

釣垂れて 魚餌につかず 蜻蛉の とまりては飛ぶ 河骨の花

淵明の 詩を讀みやみて 菊の根に ひとり土かふ 日は夕なり

川上に 雉鳴く里の 名も知らず 山くして 家五つ六つ

辿り行く 道窮りて 彳めば 木のくれしげみ 白き花散る

里遠き 門に車の 音もなし 昼寐の床に 散る椶櫚の花

蜑の子と 人に答へて 須磨の浦の 千ひろたく縄 永き日を経つ

臼の音の 聞えずなりぬ わらべらは 茶をひきさして 居眠りやせし

朝には 書を教へて 夕には 鍬をかつぎて 今日も暮れぬる

仰むけに 竹の簀の子に 打臥して 背ひやひやと 雲の行くを見る

酒盡くる 瓢に瓜の 花を活けて 絃無し琴の 音を聞かばや

永き日を 爲す事もなし 爲す事も 無くてぞ長き 日を永き日を

ひとへ衣 襟吹きはなつ 夕風に 乱れて蝉の 聲ぞ涼しき

戈を取り 印を帯ぶるは 我老いたり 風に吹かれて ひとり森を行く

稲の中に 立ちまじりおふる あだ草の とりすてられて 世を送るかな

麥はみのり 蠶はこもりぬと うち語る 翁も去りぬ 夏の日永さ

病みて臥す うばが家遠く とぶらへば 桑の林に 日はかたぶきぬ

白き酒 黒き豆腐に もてなさん 世に倦む人来 夕顔の宿

瓜を植ゑ 経を講ずる 五十年 子孫おろかに 我老いんとす

そら豆の 花に夕日の 傾きて 牛かひどもの 笛の音ぞする

うぶすなの 祭を近み 獅子舞はす 太鼓聞えて 村更けにけり

夜をこめて みつぎやはたる 里長の 提灯ふつて 小道行く見ゆ