和歌と俳句

正岡子規

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夕立の 車も馬も 馳せ去りて 大きなる牛の ぬれつつぞ行く

夕立は 隣の里や 過ぎつらん 蝉吹き飛ばす 椎の葉の風

此市に やどりとらずば 近江路や 瀬田のあたりを 逢はん夕立

一むらの 葉廣柏に 風過ぎて 夕立寒し 白川の関

晝顔の 花咲く濱の 真砂路に 跡もとどめず 夕立の雨

天人が 湯あみの盥 かへしけん 此里ばかり 夕立のふる

西晴れて 白帆むれ行 海原の 入日にそそぐ 夕立の雨

夕立の やがて来るべき けしき也 俄に騒ぐ 風の音かな

神鳴の わづかに鳴れば 唐茄子の 臍とられじと 葉隠れて居り

我宿は 汽車のひびきに まがひつつ 神の太鼓の うちばえぞせぬ

隣家に 臼挽く音か 汽車の音か 鳴神の子の 打ちならひかも

鳴神の 落ちしてふ杉の 迹見れば あわてふためきて 掻き上りけむ

鳴神の 鳴らす八鼓 ことごとく 敲きやぶりて 雨晴れにけり

鳴神の 落しし太鼓 拾はんと 惑へる顔を 見ればをかしも

鳴神の 子を落さんと 棟の上に 黄金の柱 立てし家はも

神鳴の 遠音かしこみ 戸を閉ぢて 蟻の都は 雨つつみせり

世の中は 臍もあらはに 湯あみ時 鳴神の子や 品定めする

事しげき 都をいでて 大海原 潮あみに行く 夏は嬉しも

大磯の 磯わのさわぐ 白波の 白裳著たるは 都少女か

南風 いたく吹く日は 波を高み 須磨の浦わに 潮あみかねつ