おもひこし濤は見なくに異草を野島が崎の巖の間に摘む
白濱の野島が崎の松蔭に芝生に交るみやこぐさの花
伊豆の海や見ゆる新島三宅島大島嶺は雲居棚引く
布良の濱かち布刈る女が水を出で妻木何焚く菜種殼焚く
かさご釣る磯もしづけみ頬白の鳴くが淋しきこれの遠崎
うらなごむ入江の磯を打ち出でゝおやにまつると鯛も釣りけむ
父母のよはひも過ぎて白髪の肩につくまで戀ひにけらしも
麥つくる安房のかや野の松蔭に鼠麹草の花はなつかしみ見つ
濱苦菜ひたさく磯を過ぎ來ればかち布刈り積み藁きせて置く
青梅と雀と描きし左手に書持つらむか復た逢ふ時は
負はれ來し那古の砂濱ひとり來て濱鼓子花を摘まむ日や何時
積みあげし眞木に着せたる萱菰に撓みてとゞく椶櫚の樹の花
炭がまを焚きつけ居れば赤き芽の柘榴のうれに没日さし來も
炭竈の灰篩ひ居れば竹やぶに花ほの白しなるこ百合ならむ
炭がまを夜見にゆけば垣の外に迫るがごとく蛙きこえ來
炭がまを這ひ出てひとり水のめば手桶の水に樫の花浮けり
廐戸にかた枝さし掩ふ枇杷の木の實のつばらかに目につく日頃
我が庭の植木のかへで若楓歸りかへらず待ちつ ゝ居らむ
竹棚に花さく梨の潔くいひてしことは母に申さむ
篠の葉のしげれるなべに樒さき淋しき庭のうぐひすの聲
新墾の小松がなかに作りたる三うね四うねの豌豆の花
青葱の花さく畑の桃一樹しげりもあへず毛虫皆喰ひ
桑の木の茂れるなかにさきいでゝ仄かに見ゆる豌豆の花
垣の外ははちす田近み慕ひ來て槐の枝に鳴くかよしきり
栗の木の花さく山の雨雲を分けくる人に鳴くかよしきり