春の雨 高野の山に おん児の 得度の日かや 鐘おほく鳴る
うすものや 六根きよめ まつらむと しら蓮風す 朝舟人に
しら樺の 折木を秋の 雨うてば 山どよみして 鵲鳴くも
春の潮 遠音ひびきて 奈古の海の 富士赤らかに 夜明けぬるかな
御胸にと 心はおきぬ 運命の 何すと更に 怖れぬきはに
梅幸の 姿に誰れが いきうつし 人数まばゆき 春の灯の街
桟橋や 暮れては母の ふところに 入るとごとくに 船かへりきぬ
玉ひかる べにさし指の 美々しさに やらで別れし 牧の花草
夕月夜 さくらがなかの そよ風に 天女さびたる 御手とり走る
いづら行かむ 君の案内に 菜の花の 二すぢ路の 長しみじかし
舞ごろも 五たり紅の 草履して 河原に出でぬ 千鳥のなかに
百とせを かはらぬことは 必ならずと 誓はぬ人を 今日も見るかな
秋の路 立楽すなる 伶人の 百歩にあると 朝かぜを聴く
牡丹いひぬ 近うはべらじ 身じろぎに うごかばかしこ 玉冠の珠
わがこころ 君を恋ふると 高ゆくや 親もちひさし 道もちひさし
春の雨 衆生すくひの 大力者 ぬれていましぬ さくらの中に
秋霧や 林のおくの ひとつ家に 啄木鳥飼ふと 人をしへけり
よう聞きぬ 夢なる人の 夢がたり するにも似たる 御言葉なれど
君とわれ 葵に似たる 水草の 花のうへなる 橋に凉みぬ
召されては 宿直やつれの 手もたゆく 草書したり 暮れゆく春を