和歌と俳句

與謝野晶子

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朝ぼらけ 羽ごろも白の 天の子が 乱舞するなり 八重桜ちる

春の海 いま遠かたの 波かげに むつがたりする 鰐鮫おもふ

もゝ色の 靄あたたかく 捲く中に ちさき花なる 我かのこゝち

誰れが子を 殯におくる 銅拍子ぞ 秋の日あびて 一列白き

梅の花 たき火によばれ しら髪を かきたれ来なる 隣の君よ

白き羽の 幾鳥とべば 山頂の 雲いざよひぬ 秋の湖

仁和寺の 門跡観ます 花の日と 法師幕うつ 山ざくらかな

元日や 長安に似る 大道に 遣羽子したる 袖とらへけり

羽子板に 似たりといはば おこられむ やりはごすとて 褄とる人を

ほととぎす 水ゆく欄に われすゑて ものの冷しき 色めづる君

うらさびし わが家のあとに 家つくると 埴盛るを 見たるここちに

磯草に こほろぎ啼くや 夕月の 干潟あゆみぬ 人五六人

紫野 なでしこ折ると 傘たたみ 三騎の人に 顔見られけり

夏まつり よき帯むすび 舞姫に 似しやを思ふ 日のうれしさよ

君を見て 昨日に似たる 恋しさを おぼえさせずば 神よ咀はむ

このつかのま 悲みの日に 伝ふべき 甘さと慄へ 美くしと笑み

髪ながき おんかげ渓を 深う落ち 流に浮きぬ しろがね色に

高野川 河原のかなた 松が枝に かはせみ下りぬ 知る人の家

ふるき城は 立てりしづかに 山上の わか葉そよぎの 薫ずる雨に

うすいろを 着よと申すや 物焚きし かをるころもの うれしき夕