和歌と俳句

與謝野晶子

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五月雨 春が堕ちたる 幽暗の 世界のさまに 降りつづきけり

春の夜や 聖母聖なり 人の子の 凡慮知らずと 盗みに来しや

野社や 榛の木折れて 晩秋の 来しと銀杏の 葉に吹かれ居る

君にをしふ なわすれ草の 種まきに 来よと云ひなば おどろきて来む

京の衆に 初音まゐろと 家ごとに うぐひす飼ひぬ 愛宕の郡

知恩院の 鐘が覚まさぬ 人さめぬ 扇もとむる わが衣ずれに

あやまちは 君を牡丹と のみいはで 花に似し子を かぞへけるかな

君は死にき 旅にやりきと まろ寝しぬ うしろの人よ ものないひそね

初夏の わか葉のかげに よき香する 煙草をのむを よろこぶ人と

春そよと 風ふく朝は おん墓に 桜ちらむと なつかしき父

おもはぬを 罪と知る日の 君おもひ 涙ながれて はてなき日なり

わが知らぬ われ恋ふる子の おもひ寝の 来しとゆかしむ 琴ききし夢

鳴滝や 庭なめらかに 椿ちる 伯母の御寺の うぐひすのこゑ

六月の おなじ夕に 簾しぬ 娘かしづく 絹屋と木屋と

大堰川 山は雄松の 紺青と うすき楓の ありあけ月夜

思ひたまへ 御胸の島に 糧足らず されど往なれぬ ながされびとを

君が家に つづく河原の なでしこに うす月さして 夕べとなりぬ

夏のかぜ 山よりきたり 三百の 牧の若馬 耳ふかれけり

香盤に 白檀そへて 五月雨の 晴間を告げぬ さもらひびとは

君まさぬ 端居やあまり 数おほき 星に夜寒を おぼえけるかな